綿ブロード



noir kei ninomiya　3I-B018-051


noir kei ninomiya（ノワール ケイニノミヤ）の

綿ブロードビッグシャツは２種類。

こちらがスタンドカラーで一層大きい方。

159cmの好美でSサイズが膝あたりまで。

もう一方は後ほど紹介させてもらうことにする。

そちらはお尻が隠れるくらいのサイズ感の、

レギュラーカラー。

とちらもサーキュラー（布をたっぷり使った円形）で、

胸元にブザムシャツ風のデザインがあり、

その部分のみ二重になっている。



下にはCINOH（チノ）のレギンス。

スタイリングが不要なので

誰でも着るだけでかっこいい。

ただし腕を上げて裾が持ち上がると

横はかなり上まで見えるから、

下着だけでは無理だろう。

どちらの形も原則ボトムが必要になる。

パンツでもスカートでも合うため、

繰り返しになるがコーデには困らない。



好美は初めて会った時も

このくらいの丈のワンピースを着ていた。

今はもうとり壊されてしまった横丁の

小さいが行き届いた小料理屋風のバーだった。

出会って間もない、

ほとんど何も知らない女性から、

あなたのような男を好きな女がいるから

会いに行ってほしいと頼まれたのだ。

今思い出すとミステリー小説のようだが、

当時は不思議に感じなかった。

あの頃は昼も夜も

見ず知らずの人間に囲まれて暮らす、

そういう生活スタイルだった。



出会った夜に何を食べ、

何を話したかは覚えていない。

ただ何を着ていたかだけを覚えている。

ワンピースの素材はシャギーで、

色はグレー。

洋服屋になるずっと以前のストーリー。

もしかしたら君はまだ小学校の下駄箱で

ひらがなの名前を見つめていた。

もしかしたら君はまだ

幼稚園のバスの中で泣いていた。

もしかしたら君はまだ

この世にいなかった。








綿ブロード②



noir kei ninomiya　3I-B019-051



好美はその夜ぼくの部屋までついてきた。

一番町のアパート。

僕は大抵の時間を

へたくそな絵を描くことに費やしていて、

狭い部屋の中にはアクリル絵具と

紙を貼ったパネルでちらかっていた。

まだ家にパソコンが無かった時代。

iMacを買ってブログを書けと

好美が薦めてくれるのはもう少し先の話。

数日後好美はもう一度だけ

あのワンピースを着てきたが、

その次はもう僕に合わせて

黒い服に買い替えてしまった。



勤め人がつとまらず、

いよいよお店でも出す以外

生きていく術がないと迫られた時も

好美は怯えていなかった。

祐ちゃんは若い頃から

お店をやりたいと話してたよ。

そう言う。

でもぼくの方ははそんな話を

誰かにした覚えはない。

きっと忘れているのだろう。

二人でブランドを探した頃の好美の服装は

アンダーカバーのワンピースにコート。

覚えているのはいつも服装のことだけだ。



あれば小学校だったか中学だったか、

ジーパン屋にはなりたくないと

作文に書いた。

好きなものを自由に着られなくなるからだ。

このままいくとなってしまうと

深層で察していたのだろうと思う。

キャップはENTWURFEIN（エントワフェイン）。

バッグがScye（サイ）で、

CINOHのレギンスとnew balance996。

僕は幼い日の決意を守れなかった。



祐介を選ぶなんて

好美ちゃんもよっぽど変人なんだね。

繰り返しそう言うのは母だ。

もう長くないだろう。

施設での介護用パジャマのピンクは似合っていない。

大抵は幾何学模様の化繊のブラウス。

緑、ボルドー、無地なら紺。

幼い頃の母の装いを覚えているからか。

あたしはもうここでいい。

最後までここにいられるように

あんた頼むよ。

あたしの着物は好美ちゃんにあげる。

和箪笥だよ、わかるね。

好美は着物を着ない。

ほとんどはこんな風に躰のラインが出ない

黒いドレスだ。



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